仕事は休みで、特に予定もない、そんな日曜日の朝のこと。

 平日と同じ時間にけたたましく鳴った目覚まし時計を止め、深美はけだるそうに再びベッドに横たわった。

「もう、日曜なんだから寝かせてよね…」

 眠たくて、何もする気が起きない。このまま二度寝してしまおう…とまぶたを閉じた。しかしそのとき、再びけたたましい音が鳴り響いた。それは目覚まし時計ではなく、携帯電話の着信音である。

「誰なのよぉ…こんな朝早くから…」
 電話に出ようという気持ちよりも、眠気のほうが勝っていた。無視して着信音が鳴りやむのを待ちたかったが、いかんせん耳をつんざくような音に起こされてしまう。

 仕方がないなぁ…と思いながら、目覚まし時計の隣に置かれている携帯電話を掴み取り、右耳に当てた。

「もしもし?」
 せっかく二度寝をしようとしていたところを起こされたことで、口調にやや怒りが込められていることは、誰の耳にも明らかであった。

 電話の向こうからは、なぜかふくみ笑いをしているかのような声が聞こえただけ。なんだかバカにされているかのようで、深美は腹立たしくなる。

「ちょっと! あんたは一体誰なのよ!?」
「あはは…、オレだよ、オレ」
 いつものように、からかうように笑っていたのは真也だった。やっぱりそうだったのか、と深美はムッとした顔をする。

「ねぇ、今ムッとしたでしょ?」
 真也の言ったことは完璧に図星だ。でも、それを悟られるのは癪である。深美は、不機嫌さが伝わらないように取り繕った。

「してないわよ。それより、こんな朝から電話なんかかけてきて、一体何のつもりなの?」
「いいからさ、そこの窓から外見てみなよ」
「外?」
 何のことだろう、と真也に言われるまま、ベッドの真上の窓を開けて正面の路地を見る深美。すると、部屋の窓からちょうど正面の位置で誰かが携帯電話を片手にこちらに手を振っている。真也だった。

 突然の思いがけない出来事に慌てる深美。なぜ、真也が自分の家の場所を知っているのだろうか。
「どっ、どうしてここがあたしの家だってわかったのよ?!」
「この前、友達の家に行ったときに近くまで来てさ。“羽村”って書いてあったから、ここじゃないかって思ったんだよ」
 淡々とした口調で話す真也。偶然にしては、ちょっと出来すぎているのでは? と訝しがる深美だったが、まぁ、いいだろうと調子を戻す。

「で? あたしに何か用なわけ?」
「モーニングランチに行こうと思ってさ。おいしい店があるんだよ。一緒にいかない?」
 やっぱり、そういうことだったのか。だいたいの予想はついていた。

「いいわよ?」
 めんどうくさいし、どうしようかとも思ったが、悪い誘いではない。あまり気が進まなかったが、これからすることもないし、誘いに乗ることにした。

「わかった。じゃあ、待ってるから」
 電話はそこで切られた。だるいことに変わりはないけれど、一度オーケーしてしまったものを断るわけにはいかない。深美は、渋々ベッドを下りて支度を始めた。

 深美が玄関から出てみると、そこには誰もいない。もしかして? と思い、深美が自分の部屋のほうへまわると、思った通り真也はずっと同じ場所で待っていた。

 良かった、と深美は思っていた。もし玄関で待たれたりしたら、家族に見つかってしまうかもしれなかったからである。

「よし。じゃあ、行こうか」
 深美が来たことに気がついた真也は、そのまま家の正面の方向へ歩き出した。深美も、真也に合流して歩き始める。

 隣にいる深美の顔を見て、思い出したように笑みをこぼす真也。当然不愉快になった深美は、真也を睨みつける。
「何よ。あたしの顔に何かついているとでも言いたいの?」
「違うよ。深美のさっきの反応を思い出したんだ」
「さっきのって?」
 何のことなのかさっぱりわからず、深美は真也に聞いた。
「ほら、電話のときの。深美ってさ、寝起き悪いんだね」
 まるで、真也はいいものでも見たかのようにからかって笑うので、面白くない深美はふくれっ面をする。
「悪かったわねぇ。まったく、失礼しちゃうわ」
「それに、かわいいよ。あのパジャマ」
 面白がって、さらにからかう真也。我慢ならなくなった深美は、ムキになって真也に噛みつくように反攻する。

「言ってくれるじゃないの。それなら今度はあたしがあんたの寝てるとこに電話して反応を見てあげるから、覚悟しなさいよ?」
「ふぅん。でも今朝の様子だと、オレより早く起きるのは無理そうだから安心して大丈夫かもね」
 躍起になっている深美とは対照的に、やんわりと切り返す真也。でもそんな深美の姿もかわいいと、真也は思っていた。




2011/06/27






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