うーん…と、先ほどから洋子は、歩きながら腕組みをして考え込んでいた。
「どうしたの、さっきから」
「なーんか、気になるんですよね…」
「何が?」

「何がって、決まってるでしょう! さっき喫茶店でかかってた曲ですよ!」
「喫茶店でかかってた曲?」
 二人はさっきまで、喫茶店で休んでいたのだった。記憶をさかのぼってみる。しかし、それでも洋子が何を言っているのか、わからない。
「何かかかってたっけ?」
「かかってましたよ! 歌がなかったからわからないんだけど、ええと…」
 そういえば、聞いたことのあるようなピアノの曲がかかっていたなあ、と思い出した。どうやら、洋子はそのピアノ曲の原曲が知りたいらしい。

「どんな感じの曲?」
「ええと…確か『あなたが忘れられない…』みたいな歌詞があったような…。うーん…」
「あなたが忘れられない?」
 そこまでわかっていても洋子は、肝心のタイトルがどうしても出てこないらしい。そんな歌詞の曲なら、簡単にわかりそうなものなんだがなあ、と鳥居も考えてみる。が、意外とありそうで思いつかないものだ。

 一緒になって考えているうち、思わず「あっ」と声を上げてしまいそうになった。思い当たる曲にぶつかったのだ。
「もしかして、『想い出の珊瑚礁』…だったっけ?」
 鳥居のそのひと言に、堅い表情をしていた洋子は途端に大声を張り上げた。
「あー! それですよそれ! 懐かしいなー…」
 ようやくモヤモヤから解放され、気分が良くなって洋子は歌を歌い始めたのだが…。隣で聞いているうちに鳥居は、笑い出してしまった。もちろん、洋子が黙っているはずもない。

「もーっ! 何がおかしいんですか」
「はは…、洋子ってさ、歌下手なんだねって…」
「ひどーい…。そんなこと言うなら、今度勝負しましょうよ。カラオケで!」
「いいよ? 望むところだよ」
「よーし…。そうと決まったら絶対負けないんですからぁ!」
「あはは…そうだね」
 洋子にああ言ってしまったはいいものの、少し後悔したな、と鳥居は思ったのだった。




2013/09/23






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