仕事の合間、西條と澤村はショッピングモールに立ち寄っていた。
2月下旬、バレンタインデーのお返しをお互いに選びに来たのだ。
「ブルのところはあれか? 奥さんの手作りチョコ」
「いや、育児が大変でそれどころじゃないですよ。ドックこそ、もらったんですか?手作り」
「彼女も忙しいからなあ…残念ながら手作りじゃなかったよ。それでも、とっておきを選んでくれたから嬉しかったんだよな」
西條は良子から、澤村は泉からそれぞれチョコレートをもらっている。各々仕事などが忙しい中で、お互いを想って選んだプレゼントは嬉しくないはずがなかった。
そんなことを話しているうちに、二人はホワイトデーの特設売り場に到着した。
昨日までは、バレンタインデーでたくさんのチョコレートが陳列されていた売り場も、ホワイトデー向けにチョコレートのみならず、クッキーやキャンディなど、様々な商品が綺麗に陳列されている。
そんな売り場には、制服姿の学生やスーツの会社員など、いろいろな年齢層の男性たちがたむろしていた。
西條と澤村も、そんな人々の中へ入っていった。
「おいしそうですね」
「お前が食べるんじゃないんだよ」
軽口を叩きながらも、二人ともお互いの想い人の喜ぶ顔が見たいと思う気持ちは同じだった。
カラフルで煌びやかな箱や包みがたくさん並んでいて、どこから回ろうか悩んでしまうが、二人はそれぞれ違う方向へ足を向けた。
澤村ではないが、確かにおいしそうだな…なんて考えていた西條の目に留まったのは、パステルカラーのハート型をしたマシュマロが詰まった包みだった。
縁取りがピンクになったもの、複数の色がマーブル模様になったもの…目にしただけで、あの柔らかで滑らかな舌触りで甘い触感が思い起こさせる。
「そうだな…」
不意に口をついて言葉が出てしまった。
柔らかくて甘いもの…そう。西條は、良子のことを思い出していた。
軽く触れるだけで、柔らかくて、そしてほどよく甘くて刺激的な…そんなことを思い出すだけで、身体が自然と火照っていくような感覚を覚えた。
「ドック、ドック。聞いてますか?」
「あっ、ああ…どうしたんだ?」
澤村に肩をつつかれてはっと我に返り、何だか恥ずかしくなってしまった。
あんなことを考えていたのかともし知られたら、居た堪れなくなってしまうではないか。西條は思考をなんとか軌道修正して、澤村に向き直った。
「もう選びましたか?」
もうすでに選んでしまったようで、澤村の手には、おしゃれで小さな紙袋が提げられている。
「そうだな…このマシュマロなんかどうかなって」
「それはやめておいたほうがいいですよ。ホワイトデーのお返しにマシュマロを贈るのってのは、あなたが嫌いですっていう意味らしいですから」
「なっ…それを早く言えよ…」
「ドックが先にマシュマロって言い出したんじゃないですか」
まさか、マシュマロを贈ることにそんな意味があったとは…なんだか、つい先ほどまであんなことを考えていた自分がまるで馬鹿みたいに思えてしまって、西條は余計に恥ずかしくなってしまった。
「じっ…じゃあ、これなんかどうだ?」
ぎこちない動きで、西條は隣のウィンドウを指した。そこには、色とりどりのグミの詰め合わせが飾られている。
「グミも同じですよ。あなたが嫌いですって意味です」
「はぁ…じゃあもう…どうすればいいんだよ…」
「マフィンやカップケーキなんかどうですか? それなら、あなたは特別って意味…」
「そういうこと知ってるなら先に教えてくれよな…」
項垂れていた西條は、澤村の言葉を途中で遮り、別の売り場を目指して歩き出した。
「あ、そっちじゃないですよ」
あさっての方向へ歩いて行こうとする西條を、澤村は西條の手を引いて案内する。
バレンタインのプレゼントには特段意味はないのに、ホワイトデーのお返しにはそれぞれ意味があるのはなんだか理不尽だな…と西條は内心思っていたのだった。
2025/2/25