腕時計に目をやる。もう、1時間以上は過ぎていた。ふぅ、とため息がこぼれる。

 デートの約束をしても待たされる。ひどいときはすっぽかされる。こんなことは慣れっこだ。

 今日は、何て言ってやろうといろいろ考えているうち、向こうからだいぶ息を切らせた様子のその姿が現れた。

 立ち止まって西條は、膝に手をついて呼吸を整えている。腕を組んだまま良子は、西條に対して仁王立ちになった。
「遅い! もう7時過ぎちゃったわよ」
「ごめんごめん…。ボスにこってり絞られてちゃってさぁ…もう参ったよ」
「ふぅん……。そうね、じゃあ、今度はあたしに始末書を出してもらおうかしら?」
 艶っぽく微笑んで、右手を西條に差し出す。もちろん、冗談。本当は、仕事が忙しいのに、ここまで急いで来てくれたということだけでも嬉しかった。
 だけど、西條のその参った様子がとても面白いものだから、思わず意地悪の一つでも言ってやりたくなる。
「おいおい…。勘弁してくれよ…」

 ダブルパンチ、という具合にへこんでいる西條。もう勘弁してやりますか、と良子は手を伏せて、優しい顔になった。
「わかってるわよ。お疲れ様。七曲署の刑事さん」
「ありがとう」
 息が上がっているので、ちょっと苦しかった。それでも、良子に笑って見せる。いつも、そのひと言に元気づけられているのだから。

 ようやく姿勢を正して良子と向き合った。だが、西條はまずいことを思い出した。どうしようか。後ろ頭をかきながら、落ち着かなく切り出した。
「ところで…」
「どうしたの?」
「あ、あのさあ、実は…」
 お金がないんだよ、などとはとても言えない。口ごもり、言葉を濁すしかない西條だったが、そこは良子もわかっている。
「わかってるわよ。今日のところは、あたしが立て替えてあげるわ」
「悪いなぁ…。いつもいつも」
「そう思うなら、少しは控えなさい」
「はい。そうします」
 しょげたように言う西條に、よろしい、とくすりと笑った。

 また、次のデートで同じことを言うことになるのだろうなあ。

 お互いそう思ってはいても、それが嫌だなんて、いや、むしろ幸せなんだろうなぁ、とすら、思っていた。




2013/12/07






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