38度。体温計をあたしから受け取った理介さんは、途方に暮れたようにため息をついた。
「下がらないなぁ…」
体がだるいと寝込んでから4日。なかなか熱が下がらずにいるあたしを、理介さんはずっとあたしにかかりきりで看病してくれている。
氷枕を取り替えてくれたり、パジャマを着せかえて汗を拭いてくれたり、お母ちゃんに教えてもらってお粥を作ってくれたり…。この4日間、理介さんは仕事のことも一切口にしないで、あたしのことを気遣っていた。
「理介さん、仕事は大丈夫なの…?」
「大丈夫だよ。雑誌の連載は穴を開けても代わりがいるけど、お前が抜けたらオレはどうなるんだよ」
「理介さん…」
潤んだ目で、理介さんを見上げた。理介さんの愛情がいっぱいに伝わってくる。
一久さんやテル坊や、他のみんなもお見舞いに来て、みんなあたしを励ましてくれた。だけど、他の誰かからのどんな励ましの言葉よりも、理介さんのたったそのひと言が、あたしには何よりも嬉しかった。
「小浪、何か欲しい物はないか?」
理介さんは、優しくあたしにそう問いかけた。でも、あたしは首を振る。
「ないよ。だって、ずっと理介さんがこうしてそばにいてくれるんだもん」
熱でぼんやりしているけど、あたしは精一杯に微笑んだ。
「小浪…」
理介さんは、たまらなく愛おしそうにあたしを見つめている。
「ありがとう、理介さん」
あたしと見つめ合ったまま、理介さんは身体をゆっくりと前へ倒していく。あたしの身体の上の影が、だんだんと大きくなっていった。
「風邪、うつっちゃうよ?」
「いいよ。小浪にだったら…」
ゆっくりと瞳を閉じると、理介さんは優しく、あたしに口付けた。
2012/05/01