「はい! 理介さんの分ね」
「おっ、サンキュー」
買ったばかりのアイスキャンディーの片方を理介さんに手渡した。外はとても暑くて、あたしも理介さんものどがカラカラ。すぐにビニールを破いてアイスを口に入れた。
「はぁー…冷たーい…」
「気持ちいいなぁ」
汗ばんだ身体に、ひんやりとした清涼感が突き抜けていく。理介さんは冷たさが頭に来たのか、目を閉じて少し苦しそうにしていた。その顔が面白かったので、あたしはつい笑ってしまった。
「笑うなよ。お前だって来ただろう?」
「ぜーんぜん?」
したり顔でアイスを舐めているあたしに、理介さんはつまらなそうに小さく舌打ちをした。
初めて移動販売のアイスを買ったけど、なかなかおいしい。そんなことを思いながらアイスを舐めていると、何やら隣から熱い視線を感じる。
あたしはアイスを口にくわえたまま横を向いてみると、理介さんが物欲しそうにあたしのアイスをじっと見ていたので、思わずあたしはギョッとしてしまった。
「何よ。びっくりするじゃないの…」
「なぁ、そっちのほうがうまそうじゃないか。ちょっと食べさせてくれよ。オレのも食べさせてやるからさ、」
「えー?」
あたしはちょっと嫌な顔をした。それが嫌なわけじゃないけど、何もこんな道っぱたで…。
「誰も見てるわけじゃないし、いいだろ? 少しくらい」
「…しょうがないなぁ、はい」
少し間を置いてしぶしぶ、理介さんとアイスを取り換えるあたし。なんとなく気が進まないあたしに対して、もうすでにあたしのアイスを舐めている理介さんはなんだか嬉しそう。「ちょっと」って言ったのに、いつまで舐めてるのよ…。
あたしが舐めていたのは水色のアイスに対し、理介さんに渡したのはオレンジ色のアイス。別にあたしがこれと選んだわけじゃなく、アイス売りのおじさんが適当に選んだアイスを、あたしは特に何も考えずに理介さんに手渡しただけなのになぁ。
「何だよ小浪? 遠慮せずに食べればいいじゃないか」
「食べるわよ。言われなくたって…」
横目で理介さんを睨みながら、理介さんのアイスをぺろりと舐めた。だけどわずかな間を置いて、あたしは思わず口を押さえてしまった。
「どうしたんだよ」
「なにこれ…!」
変な味がする。アイスの味とは思えない、今まで食べたことのないような、おかしな味が…。
冷静になって頭を整理してみると、思い当たることと言えば…。
「理介さん…、さっき、タバコ吸ってたでしょ…」
「吸ってたけど、それがどうかしたのか?」
真っ青になっているあたしとは対照的に、理介さんはのん気な顔をしてアイスを舐めている。なんだか、腹立たしくてきた。
「もう! そのアイスいらないっ!」
「お、おい待ってくれよ小浪! お前のアイス返してやるよ、ほら…」
あたしは怒って、ぷいとそっぽを向いた。でも理介さんは何が何だかわからない、というような顔をしていた。
「いらない! 理介さんが食べればいいでしょ?」
「どうしたんだよ、オレが何したっていうんだよ…」
理介さんには悪いと思うんだけれど…。ね?
2012/12/30