そして、夏祭り当日の土曜日。エリは、鏡の前で浴衣を合わせていた。

「似合ってるかな…この浴衣」
 夏祭り当日まで悩んだ末、エリが選んだのは花火の柄の浴衣。エリは早く内木に見てほしくて、弾んでいる。

「エリちゃん、もう入っていい?」
 チンプイは、エリが着替えるため部屋の外で待っていた。
「いいわよ!」

 部屋に入ってきたチンプイは、エリの浴衣姿を見て目を丸くした。
「うわぁ〜!すっごく似合ってるよ!」
 チンプイの誉め言葉に、エリは素直に喜ぶ。
「ありがとう〜!内木さんもそう言ってくれるかしら」
「絶対内木くんも『似合ってるよ』って言うに決まってるよ!自信持って!」
「うふふ!チンプイったら〜!もう!」
「うわっ!痛いよエリちゃん!」
 嬉しさからつい、エリはチンプイをはたいてしまった。

「う・ち・き・さーん!」  エリがウキウキしながら内木の家に入ると、すでに内木は靴を履いて玄関で待っていた。

「エリちゃん。時間どおりだね」
「えへへー…。どう?この浴衣」
 エリは、内木にポーズをとって見せた。

「すごく似合ってるよ。エリちゃん」
「ありがとう〜…」
 内木に誉められた嬉しさから、エリは顔を真っ赤にして照れる。

「さあ、行こうか。エリちゃん」
 そう言い、内木はドアの方へ向かった。その後ろを、エリはすかさずついて行く。
「うん!行きましょ行きましょ!」
 2人は仲良く、夏祭りの行われている神社へ向かった。

 神社へ到着した2人は、まず屋台で何か食べようということになった。
「エリちゃん、何か食べたい物ある?」
「わたしは…内木さんの食べたい物なら何でもいいわ…」
 エリは照れて顔を赤らめながら言った。
「ぼくは…、そうだなぁ。たこ焼きでもいい?」
「もちろん!」
「オーケー、じゃあ買ってくるね。エリちゃんはあそこで座ってて」
「はーい!」
 言われた通り、エリは近くにあるベンチに腰かけた。

「内木さんと2人っきりで夏祭りなんて…、うふふ!嬉しくっておかしくなっちゃいそう…」
「エリちゃん、お待たせ」
 たこ焼きを持って、内木がエリの隣に座る。
「熱いから気を付けてね」
「はーい。いただきます」
 たこ焼きを一つ取り、エリはよく息を吹きかけながら口に入れる。しかし、まだ熱かったため、エリは吐き出しそうになってしまう。
「ハフッ!熱い熱い!」
「大丈夫?エリちゃん」
「熱ーい…。舌火傷しちゃったかも…」
 エリは舌を出し、ヒリヒリする部分を見つめた。
「冷たい飲み物でも買ってくるよ」
 すかさずエリに気を遣い、内木はベンチを立ったが、エリは内木のシャツの裾を掴み、引き止めた。
「いいわ。これくらい平気よ」
「そう?それなら、いいんだけど…」

 内木は再びベンチに座り、手をかざしてたこ焼きの熱さを見ている。
「ほらエリちゃん。これならあんまり熱くないよ」
 そう言って、内木はあまり熱くないたこ焼きを差し出した。
「ありがとう、内木さん!」
 エリは上機嫌に、そのまま内木の手からたこ焼きをパクッと食べた。
 その突然のエリの行動に、内木は動揺してしまう。
「エ、エリちゃん…」
「おいしい!内木さんもどうぞ!わたしが食べさせてあげるわ!」
「い、いいよ!自分で食べるよ」
 後ずさり、内木は遠慮をする。しかし、エリは強引だった。
「そんなこと言わないで。はい!あーん…」
 「しょうがないなあ…」と、内木はエリの口からたこ焼きを食べる。
「おいしい!?」
「うん…とってもおいしいよ」
 恥ずかしそうにしている内木とは対照的に、エリはこの上なく上機嫌。舌を火傷してしまったことなど、いつの間にか忘れてしまっていた。

 たこ焼きを食べ終えた2人は、かき氷を食べながら屋台を見て歩いていた。
「ねえ内木さん、ちょっと『エーッ』ってやってみてよ」
 エリは意地悪っぽく笑った。内木はエリに言われるままに、「エーッ」と舌を出す。
「あはは!内木さん、メロン食べたから舌が緑色になってる!」
 「わーい!引っかかった!」とばかりに笑うエリに、内木は少し不機嫌になる。
「もう。そう言うエリちゃんはどうなんだよ」
「わたしイチゴだもん。変わらないわよ〜だ!」
 ベーッ!と、エリは内木に舌を出してみせる。内木はエリのように、意地悪に笑う。
「エリちゃん、舌の色が変わるのが嫌でイチゴ食べたんだろ?」
「違うわよ〜!わたしはイチゴが好きだからイチゴを食べたの!」
 何だかおかしくなり、2人は声を上げて笑った。

 歩いていると、エリの目にふと止まるものがあった。
「あっ!ヨーヨーつりだ!」
「エリちゃん、待ってよ!」
 ヨーヨーつりの屋台に駆け寄り、エリは目を輝かせて色とりどりの水風船を眺めた。
「1回、お願いしまーす!」
 店主に針を受け取り、エリは袖をまくった。
「さあ、頑張るぞー!」
「エリちゃん、どれが欲しいの?」
「あのピンク色の!」
 ピンク色の水風船のゴムに見事針を通し、「やった!」と2人は声を揃えた。しかし、引き上げられずに水の中へ落としてしまう。
「あーあ…」
 切れた紙の紐を見て、残念そうな表情を浮かべるエリ。それを見ていられない内木は、「1回お願いします!」と、店主に100円を渡した。
「内木さん、頑張って!」
 失敗してしまった悔しさから、エリは内木に期待を寄せる。
「コツがあるんだよ。紙の部分を濡らさないようにしてやれば…」
 言った通り、紙の部分を濡らさないようにして、内木はピンク色の水風船を吊り上げた。
「わぁ!内木さんすごーい!」
 嬉しさから、エリは思わず拍手をした。内木は、「はい、エリちゃん」と水風船をちゃんとエリの右手の人差指にはめてあげた。
「内木さん、ありがとう…」
「どういたしまして。エリちゃん」
「しぼんじゃっても、大切にするわ」
 嬉しそうに水風船を見つめるエリ。そのエリの嬉しそうな表情に、内木も笑顔になる。

「さ、他のとこも見て回ろうよ」
「はーい!」
 エリは元気よく返事をすると、歩き出した内木の手をさりげなく握った。内木は、照れて顔を赤くした。
「エ、エリちゃん…」
「わたしがさっきみたいに勝手に走って行ったら、内木さんと迷子になっちゃうもの…」
 エリも少し恥ずかしそうに、軽く俯いた。その言葉に納得した様子の内木は、優しい表情でエリに笑いかける。
「そうだね。じゃあ、行こうか」

 エリは心の中で幸せな気分に浸りながら、手を繋いで内木と歩いて行った。




2009/07/28






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